【量子コンピュータ】第一回「量子ビットと重ね合わせ」(10分)

【量子コンピュータ】第一回「量子ビットと重ね合わせ」(10分)

今回紹介したような、表の可能性と裏の可能性が共存した状態を、「重ね合わせの状態」と言います。
では「重ね合わせ状態」を物理的にどうやって作るのか?という疑問(ハードウェアに関する疑問)については今回のシリーズ【量子コンピュータ】では説明しません。

■オススメ書籍(あくまで私の個人的な評価です。)
・高校3年以上の方には、
宮野健二郎、古澤明 共著『量子コンピュータ入門』日本評論社
コメント「おそらく最善の入門書。主要なトピックが優しく網羅されている。」

・物理学科3年の方には、
G.ベネンティ, G.カザーティ, G.ストゥリーニ著『量子計算と量子情報の原理』廣瀬一訳、丸善株式会社またはシュプリンガー・ジャパン(内容は同じ)。
コメント「量子力学を学ぶ際のモチベーションの維持のために最適!読んでいて楽しい。」

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<台本>
今回は、量子コンピューターについてのお話です。
まず、①で量子について、②でコンピューターについて、③で量子コンピューターについてをお話しします。

①量子コイン。

はじめに皆さんに質問です。
頭の中でコイントスをしてみてください。
この時、手は絶対に開かないでください。

では質問です。この手の中の状態はどうなっているでしょうか?
普通に考えれば、「表の状態」または「裏の状態」の、どちらか一方の状態にあると考えるはずです。

しかし、量子コインでは、
表でもなく、裏でもなく、どちらの状態にもおらず、ただ、両方の状態の可能性が共存していると考えます。

普通に考えれば、手の中で表か裏かはすでに決まっていると考えるでしょう。
しかし、量子コインでは、まだ手の中では表か裏かは決まっておらず、表50%裏50%という確率だけが存在していると考えるわけです。

では、いつ おもてか裏かが決まるのでしょうか?
それは、手を開いて、手の中を観測した瞬間に決まると考えます。

全く意味不明だと思いますが、それは私も同じです。

そこで、私が使っているイメージを紹介します。

私のイメージの一番のポイントは、「可能性」という言葉を「おばけ」という言葉に置き換えて考えるということです。
これを踏まえて、量子コインのコイントスを改めて見ていきましょう。

まずコイントスをして、ブラックボックスに隠します。
では少し、中を覗いてみましょう。
但し、これはあくまで私のイメージであって、ブラックボックスの中の真実は誰にもわかりません。

イメージ1。
ブラックボックスの中にコインが隠れた瞬間に、コインから裏表の印字がお化けのように抜け出して、無印のコインとなります。

イメージ2。
お化けには実体はなく、「確率」と言う指標のみ持っています。今回のコイントスであれば、表印のお化けは確率50%という指標のみ持ちます。裏印のお化けも同様です。

イメージ3。
ブラックボックスを開き、中を観測した瞬間、抜け殻のコインに、表印か、裏印かのどちらか一方のお化けが瞬時にはいり込み、文字が刻印されます。同時に、もう一方のお化けは消滅します。この時、どちらの文字が刻印されるかはお化けが唯一持っていた確率に従って決定されます。
つまり、ブラックボックスの中を見られる瞬間に、表か裏かが決定するというわけです。

以上が私の使っているイメージです。

量子コンピューターはこのお化け達に仕事をさせるのです。すなわち、可能性に仕事をさせるということになります。

②算盤コンピューター。

まず、コンピューターとは何でしょうか?
それは、自動計算機と訳されます。

すると、計算機とは何でしょうか?
イメージとしては、そろばんを思い浮かべてください。
そして、この算盤を機械が自動で弾くと考えて下さい。
これが、自動計算機、すなわちコンピューターのイメージとなります。

また、コンピューターの算盤には一列に1珠しかありません。
通常のそろばんであれば一列に5つの珠があり、0から9までの数字を表現できますが、
それに対して、1珠のそろばんでは、「0」と「1」のふたつの数字だけで情報を記録します。

例えば、現在我々の使っている電気コンピューターでは。「オン」と「オフ」の2種類の電気信号を使って、「0」と「1」を表現し、記録しています。

このスイッチを大量に並べて、高速にオンとオフを電気制御することで高速な自動計算を実現するわけです。

では、「0」や「1」といった情報を、量子コインの「表」と「裏」で表現したらどうでしょうか?

③量子コンピューター。

「0」や「1」といった情報を、量子コインの「表」と「裏」で表現したらどうなるかについて考えて行きましょう。

はじめに、2枚の量子コインを投げて、それぞれをブラックボックスに隠した場合を考えてみます。

まず、通常のコンピューターとの決定的な違いは、一枚の量子コインで「0」と「1」の両方の状態を同時に記録できる点にあります。但し、「0」と「1」は可能性としてしか存在しておらず、おば化けのような実体のないものをイメージして下さい。
ここで重要なのは、この可能性達は実体がなくとも確かに存在している。と考えることです。
決して、ブラックボックスの中では既に1つの状態に確定しているとは考えないで下さい。

次に、2枚の量子コインでは何通りの可能性が存在できるかを数えて行きます。
それぞれのブラックボックスの中で、「0」と「1」の2通りの可能性が存在しているわけなので、全体で見れば、2通り掛ける2通りで4通りの可能性達が並立することになります。

言い換えれば、
2枚の量子コインで4通りの状態を「可能性」として保持できる。ということになります。

では、n枚の量子コインの場合はどうでしょうか?
一つのブラックボックスにつき2通りですから、n個のブラックボックスが並べば、
2のn乗通りの状態を「可能性」として保持できることになります。

ここで、2のn乗というのは指数関数です。また、指数関数は急激に増加することで有名です。
例えば、10枚の量子コインなら、2の10乗。即ち、1024通りの情報を可能性として保持できます。さらに10枚足して20枚となれば、100万通りを優に超えます。
このように、コインの枚数の増加に対して、保持できる状態の数は爆発的に増加します。

では、この大量に生成した可能性達をどのように使えばよいのでしょうか?

簡単な例題として、複雑な迷路の問題を考えてみましょう。
問題設定は至ってシンプルです。

スタート地点から出発して、たった一つのゴール地点に辿り着くような唯一の経路を見つける。という問題です。

分岐の回数をn回とすれば、経路の総数は2のn乗本となるので、
分かれ道が増えるごとに爆発的に複雑になります。

この問題設定の場合、普通のコンピューターであれば、
まず、経路000を試し、次に経路001を試す。次に経路010を試す。・・・と、
一つ一つの経路を虱潰しに試して行くしかありません。
そのため、著しい時間がかかります。

例えば、一つの経路を試すのに掛かる時間をT秒とすれば、
全経路を潰すには、T掛ける2のn乗秒の時間が掛かることになります。
問題を解くまでに掛かる時間が、nに対して指数関数的な増加を示すことから「指数関数時間」と呼ばれます。

指数関数時間の掛かる問題に対して、普通のコンピューターで挑戦すると、nのサイズが大きくなるにつれて爆発的な時間が掛かるという問題が生じます。

一方で、量子コンピューターならどうでしょうか?

一度にすべての経路を可能性として表現できます。そして、2のn乗匹のお化け達が一斉に全経路にアタックすることができます。

ただし、このお化け達のなかで、実現するのはたったの一匹のみです。
どのおばけが実現するかは、ブラックボックスを開けた瞬間に決まります。

たとえ、おばけ達の1匹がゴールにたどり着いても、そのおばけが実現する確率は2のn乗匹ぶんの1匹です。

的外れのおばけが実現すれば、試行は失敗。もう一度、始めからやり直さなければなりません。

そのため、当たりのおばけ。即ち、ゴールに辿り着いたおばけを引き当てるには、おおよそ2のn乗回程度、試行を繰り返さなければ当たりは引けません。
第一、これなら量子コインでなくとも、通常のコインで同様の状況を作れるわけですから、量子コインを使う意味がありません。

せっかく量子コインで作ったおばけ達も水の泡です。おばけ達の無駄遣いなわけです。

要するに、このおばけ達をどう上手く工夫して使うかが量子コンピューターの鍵となります。

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